広島の高校でのHR活動の実践例

広島県立三原東高等学校のHR活動でカタルタをご活用いただきました。目的としては進路決定に向けたもので、その実践内容を教えていただく機会を得ました。実践・ご報告をいただいた村上貴之先生、関係者様、ご共有に感謝申し上げます。

大変嬉しいことに結果は上々、「いい感じに進んだ」とのことで、

今回は,3学年4クラスでカタルタを使った授業を実施しましたが,どのクラスも盛り上がった授業になったようです。国語科の先生は,「自分の授業でも使えそう」と言っていました。

と、このようなお声もいただきました。

さて、どう実施されたのか。どんなことが起きたのか。早速見ていきたいと思います。

今回、村上先生は生徒さんらの進路決定を目的に、生徒さん自身の書いた長所・短所の内容が広がっていくことを期待して、カタルタを使ったワークを企画されました。以下、ご報告をそのままご紹介し、間でコメントしていきます。

本日,HR活動(面接に向けて)でカタルタを利用させていただきました。


授業計画としては,全員がカタルタを引く。

ペアになり,①学校生活で一番頑張ったこと,②あなたの長所,③あなたの短所,④関心を持ったニュース,⑤あなたの趣味,⑥入社後(入学後)は何をしたいか,の項目から一つを選び,回答を求め,持っているカタルタを見せ,その接続詞に続けて話をする。


ペアをずらしながら,上記作業を繰りかえしていく予定でした。

テーマを選ぶ方式にし、即興度を落としたシンプルなルール設定をされています。名刺交換ワークをご存知の方は、そのカード交換をしない版と思えばイメージしやすいでしょう。組んだ相手のカタルタワードに続けて語るというやり方のようです。ちなみに、「予定でした」と過去形なのは、実際には予定変更をされたからです。詳しくは後ほど。

 今日の授業では,まずデモンストレーションから始めました。「自分は脳の瞬発力があると思う人」と生徒に呼びかけ,応じた二人を前に出しました。二人は不安げな様子です。


 私が,一人に「あなたの長所は?」と質問しました。その生徒は,「何事にも最後までやり遂げることです」と答えたので,私がカタルタを引き,その生徒と他の生徒に見せました。そのカタルタには,「具体的には」と書かれており,「具体的には」に続けて,話すことを求めました。その生徒は,悩んでいましたが,「ピアノです。小学生のころから初めて今もずっと続けて頑張っています。」と答えました。


もう一人にも「あなたの長所は?」と質問しました。その生徒は「切り替えの早いところです」と答えたので,前述の生徒にカタルタを引かせ,出てきた「いいかえると」に,続けて話をさせました。二人の続けての話に対し,他の生徒たちは,拍手でした。


生徒たちは,この授業で何をするのか,カタルタは何なのか,どうこたえるかといったことに興味津々でした。

生徒さんの楽しんでいる様子が伝わってきます。デモンストレーションが適量で非常にスムーズな立ち上がりといった印象を持ちました。やり方の特徴としては、語り出しの一文を最初から据えるのではなく、質問から始まり、それに対する回答がそのまま語り出しの一文になっています。そしていよいよワークへ。

デモンストレーションを終え,全体の作業スタートです。


全員にカタルタを引かせ,ペアを作り,質問者と回答者に分かれて模擬面接をしました。珍回答も出ているようで,笑い声があちこちであがりました。


「そろそろ,ペア交代を」と思ったのですが,ウチのクラスの生徒たちは,カタルタにつなげて話をするのにすぐに出る生徒,なかなか出ない生徒とペアによって時間がまちまちになり,一斉に初めて一斉に終わることにはなりませんでした。


 したがって,ペアでの作業は止めて,適当にグループを作らせ,グループでの作業に変更しました。

ここで早めの方針転換。即興に対する得手不得手についての個人差もあるでしょうが、語りの内容が現実に則しており、深く考えて答えるような内容が語られる場合は、即興度かテーマの難易度を下げるのがよさそうです。

今回の場合ですと、元々枚数は一枚だったようですし、即興度を下げるよりも、語りのテーマの難易度を下げるともう少し語り終わりが揃ってくるかもしれません。その場合、HR活動の本来の目的との関連性をどれくらい保持してテーマ設定できるか、あるいは練習と割り切ってとにかく語りやすいテーマにするか、といった設計上の分岐点がありそうです。

それでも、この場で何をするのか、カタルタとは何なのかということが伝わったのは確かなようです。その証拠に、この後何が起きたか。一言で言えば、“自走”です。

生徒たちは,一つの質問に対し,順番にグループ内の誰かのカタルタに続けて話をしているようです。


 そして,グループを渡り歩く生徒もいて,クラス内は混沌としながらも,カタルタを使って,①~⑥の質問を生徒同士でしていました。


 すると,まず,新たなカタルタを求めて私のところに来る生徒が出てきました。生徒の持っているカタルタと交換といった形で,新たなカードを渡しました。


 次に,出てきたのは,私の持っているカードの中から,答えにくい接続詞のカードを探して持って行く生徒です。JOKERや「いつのまにか」「なぜか」「せっかくだから」を見つけ,嬉々として自分のグループに持って行きました。


 カタルタにつなげてどんな話をするか,生徒たちは,楽しみながら脳をフル回転させていました。

自分自身のことを考えて言葉を探し、クラスメートのことを知る。さらに方法を探求し、実践する。その一切がHR活動の一コマに収まっているのですから、さぞかし「脳をフル回転」させたことでしょう。

見逃せないのが、予定変更後はカタルタをどう使うかが生徒さんに委ねられている点です。方法自体を生徒さん自身が考え出していく様子が可笑しくもあり、頼もしくもありました。やらされていない感じといいましょうか。遊び心が損なわれていないのが素敵だなと思います。実際、後日次のような補足をいただきました。

授業の後半では,生徒たちは,それはもう”勝手”に,カタルタを楽しんでました。(「主体的な動き,能動的な授業」とも言えます。)

ここでの体験はカードを使ってこそいますが、言葉の用い方や言葉のやり取りについては現実と似ています。手渡したりもらい受けたりという構造は同じです。しかし体験の質感が違う。言葉に自覚的になる程度が違う。そこで実感することは、「いろんな方向へ考えることができる」とか「いろんな尋ね方ができる」といった、至ってシンプルなことかもしれません。しかし、本来そのような言語運用能力が自らに備わっていることが再認識され、それがそのまま自信に繋がっていくとよいなと思います。

最後に、ポイントを整理しておきます。

ポイント1:予め場の要請を織り込んだ語り出しのテーマを質問という形で用意した。

ポイント2:様子を見て、早めに予定変更の判断をした。

ポイント3:使い方を語り手たちに委ねることで、コントロールを手放した。

いずれも、語りたい気持ちに照準が当たっているとお見受けします。それは、語るテーマへの理解を深めること、新しい表現を獲得することに資するものでしょう。言ってしまえば、カタルタはトリガーに過ぎません。先生がそのトリガーに対して当初期待した役割をゆるめ、コントロールを弱めていったのと反比例するように、生徒さんらが考える分量が増えていったように感じられました。その場の交通整理がうまくなされたらこんな風に進行していくという、よいケースだと思います。

村上先生、関係者の方々、改めましてご共有いただきありがとうございました。

※当記事を読まれた方で、ご自身の実践された事例を共有いただける方、見聞きした事例をご紹介いただける方がいらっしゃいましたら、ぜひご連絡ください。お待ちしております。