中学校の国語の授業での実践例

中学校の国語の授業でカタルタを使用されている先生に、実践例を教えていただきました。快くご共有いただき、感謝申し上げます。詳細をご紹介しつつ、窺い知れること、気づいたことを書き添えていきます。

まず教えていただいたのは、次の3つの利用用途です。

3つの利用用途

  1. 席替えのあとで新しくグループになったメンバーとのアイスブレイク
  2. 話す、聞く学習のウォーミングアップ
  3. 語彙を増やす目的で日常的に授業の導入場面で

念のために補っておくと、こうした事例は大抵の場合こちらで用途の提案をしたのではなく、現場の先生よって開拓された用途です。カタルタ自体は幅広い利用用途で効果的に思考を活性化するために、ツールを構成する要素を削ぎ落とせるだけ削ぎ落としてあります。したがって、使い方の詳細や語りのテーマ設定を場に応じて使い手が補っていく必要があります。

上記の用途で具体的にはどう使われたのか、またその前後での変化について、さらに教えていただきましたので詳しく見ていきます。

1. 席替えのあとで新しくグループになったメンバーとのアイスブレイク

席替えをカタルタの利用機会と捉えることは、個人的には盲点で、とても新鮮でした。なぜ気づかなかったのかと思うほど、カタルタがうまくハマりそうな機会だと思います。

具体的な使い方

具体的な使い方としては、席替えをした後に自己紹介して即興で3枚めくって語るといった使い方の他、「最初に3枚程度配って,カードの言葉を使って自己紹介」というものだそうです。「カードの言葉を使って」というのは、即興でめくって語るのではなく、手札の中から自分で言葉を選んで使うということです。

即興語りの難易度を落としたこの使い方は、場に本来の目的やカリキュラムがある場合によく採用されています。席替えでなくとも、教育現場や研修での馴染みがよさそうです。

2. 話す、聞く学習のウォーミングアップ

「話す、聞く学習」は、どちらも裾野が広く、それぞれにいろんなポイントがありそうです。具体的な使い方とともに、カタルタの有る無しでどんな違いがあるのか、お伺いしました。何往復もやり取りをしたわけではありませんので、一度の質問でご回答いただいた内容を引用にてご紹介します。細かくお尋ねしたわけではないからこそ、先生が重視されたポイントがなんであったかが明確になるかと思います。

具体的な使い方

こちら側から話すテーマを与えて,そのテーマについてのフリートークをカードの言葉で話を繋ぎながら,最後までその話題で話をさせたり,各グループでテーマを決めさせて,同様のやり方で話をさせたりしています。いずれにしても,時間(5分ほど)で活動させます。テンポよく話ができるグループはカードを使いきって話せます。5分後に報告させると,使いきれなかったグループの闘争心を刺激するようです。

カタルタの有無で何が変わるか

話すことが苦手な子はフリートークですと、フリーライダーになります。つまり話し合いに参加しない、できない、ということがあります。カードをめくって一人ずつ話をしなくてはならない状況下を敢えて作ることでその後の話し合いへの参加のハードルを下げることができるかなと感じています。様子を見ても話せる子に比べれば少ないですが,発言する姿が見られます。   用いないで話し合いをさせるよりは,話し合いが活発化すると思います。   カードの接続語等を用いながら,前の人の話を受けて話をつないでいくことをルールとして課すので,傾聴姿勢も育っていると思います。

ご報告の内容が濃く、もっと知りたいこと、考えたいことで頭が溢れかえってしまいますが、ここでは一点だけ触れておきます。ワークのルールがコミュニケーションの作法としての役割を果たしている点。これが何を守っているかと言えば「機会」ではないでしょうか。話す機会、聞く機会、言語化する機会、知ってもらう機会、失敗する機会。そうした機会を最大化し、リスクを最小化するのが練習や訓練といったものでしょう。一旦、このキーワードを書き留め、先に進みます。

3. 語彙を増やす目的で日常的に授業の導入場面で

ここで1つドキドキした点が、「日常的に」授業の導入場面で使っていただいているとのこと。相当なヘビーユーザーの方からお話を伺えたわけです。そうであるからこその利用のバランス感覚を学びたい! と思うのでした。

具体的な使い方

スタンダード,ロジカル,ストーリーと買い揃えておるので,様々な場面や発達に応じて使わせていただいております。

詳細はわかりませんが、基本的にはこれまでに出てきた使い方を適宜調整されているものと想像されます。

「語彙を増やす目的」ということで、「聞き馴染み」があっても「使い馴染み」のないカタルタの 語句を使ってみる試みなのか、と確認させていただいたところ、あっさりと予想が外れました。

カタルタのカードの接続語や副詞などの語彙は,聞き馴染みも使い馴染みもないという生徒は,案外多くいます。カードを使うことで,言葉に出会う機会にしようというのがこちらの意図です。

カタルタの文言について「聞き馴染みもない」生徒さんが案外多いというのは意外でした。しかしそれが中学校におけるリアリティーの一端だと知ることができたことは、非常に意味のあることです。そして、「言葉に出会う機会にしよう」という意図が明確であることが、私の職業意識を鼓舞します。

言葉の難易度に対しての認識を更新しつつ、思考の展開の偏りをどうほぐしていくかの塩梅をさらに考えていく、その思いを新たにしました。そしてその思いを励ましてくれるような観察がなされていることもまた、続けてご紹介します。

カタルタの有無で何が変わるか 

  話し合い中に出てきたカードの言葉と初めて出会ったときは,とりあえず使って話をしていますが,子どもによってはその言葉を正しい文脈で使いたいと思うようで,自主的に辞書を引いたりするなどして,語義をきちんと理解して使おうという者がいるなど,効果がありました。

関心が立ち上がり、辞書を引くという自主的な行為につながっています。

また,語りの中でも使う者はおりますが,話すよりも,一番カタルタをする前と後で変容が見られたのは,作文です。カタルタを使う前には登場しなかった接続を用いて論理展開するなど,より論理的な意見を書く者が増えました。

先生の実感として大きいのが、作文の出来に変化が見られたこと。これは大いに気に留めておこうと思います。以前、小学生の日記の内容が豊かになった事例をご紹介しましたが、中学生に関しても、同様の変化が起きたことはうれしいご報告でした。

ここまで盛りだくさんだったので、お伺いした内容を2つのリストに整理しておきます。

今回のテクニックリスト

(以下に、使ったことのないテクニックはありますか?)

  • 即興でカードをめくらせる/カードの言葉を選ばせる、を使い分け。
  • カードをめくって一人ずつ話をしなくてはならない状況下を敢えて作る。
  • 話すテーマを与えたり、各グループでテーマを決めさせたりする。
  • 時間(5分ほど)で活動させる。
  • スタンダード、ロジカル、ストーリーテーリングと買い揃え、様々な場面発達に応じて使っている。

今回カタルタで起きた変化のリスト

(以下に、あなたの望む変化はありますか?)

  • 話し合いへの参加のハードルを下げることができる。
  • 話し合いが活発化する。
  • 傾聴姿勢が育っている。
  • 自主的に辞書を引いたりするなどして、語義をきちんと理解して使おうという者がいた。
  • カタルタ前後で特に変容が見られたのは作文。
  • より論理的な意見を書く者が増えた。

カタルタに書いてあるのは、基本的にはごく普通の言葉です。それらは分節化され、選定され、カード化されています。逆に言えばそれだけの差分しかありません。だからこそ練習が本番に似るのですし、非日常と日常の境が消えうるのだと思います。そのような体験が、思考と現実の連絡経路を切り拓いていくことに繋がる。そんなイメージを持っています。

言ってしまえば、カタルタで起きる変化というのは、本来の言葉のあり様とカタルタとの小さな差分に反応した人間が生み出すものに他なりません。そのささやかな違いによって、どれだけの変化を生み出すことができるのか。我々はそのことに挑戦していると言えます。

今回も、多くのヒントと考える機会をいただきました。ご報告者様、改めましてありがとうございました。

※ご自身の実践された事例を共有いただける方、見聞きした事例をご紹介いただける方がいらっしゃいましたら、ぜひご連絡ください。本当にお待ちしています!